電子契約の導入を検討する際、「電子で締結した契約は法律上有効なのか」という疑問が生じることがあります。本記事では、法務省・デジタル庁の公開情報をもとに、電子契約の法的根拠、電子署名法の概要と推定効の仕組み、および電子署名方式の種類について整理します。

電子契約の法的根拠

民法上の契約成立

民法上、契約は申込と承諾の意思表示が合致することで成立します(民法第522条)。この原則は、書面や押印を成立要件とするものではなく、電子的な手段による意思表示であっても契約は成立します。

ただし、一部の法律(金融商品取引法、宅地建物取引業法など)では書面交付義務が定められており、各法律の規定に従った対応が必要です。電子化が認められる範囲については、個別の法令を確認することが重要です。

e-文書法による電子化の推進

平成17年(2005年)施行の「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(e-文書法)により、法令で書面での保存等が義務付けられている文書について、一定の要件のもとで電磁的記録による代替が認められています。

電子署名法の概要

「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法、平成13年4月1日施行)は、電子文書の真正性を担保する法的基盤として制定されました。

電子署名法第3条の推定効

電子署名法第3条では、以下の推定規定が設けられています。

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(略)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による一定の電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

平易に言い換えると、「本人しか使えない電子署名が付された電子文書は、本人の意思に基づいて作成されたものと推定される」という効果です。この推定効は、民事訴訟において文書の成立の真正を証明する際の根拠となります。

電子署名の要件(同法第2条)

法律上の「電子署名」とは、電磁的記録に記録された情報について行われる措置のうち、次の両方を満たすものです。

  1. 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること
  2. 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること

電子署名の方式と第3条推定効の関係

電子契約サービスでは、主に「当事者型(当事者署名型)」と「立会人型(事業者署名型)」の2種類の電子署名方式が用いられます。

当事者型(当事者署名型)

契約当事者自身が電子証明書を取得し、自己の秘密鍵で電子署名を行う方式です。マイナンバーカードに搭載された電子証明書を利用した署名などが該当します。

本人だけが保有・管理する秘密鍵により署名が行われるため、電子署名法第3条の推定効が働きやすい方式とされています。

立会人型(事業者署名型)

クラウド型の電子契約サービスの多くで採用されている方式です。契約当事者の指示に基づき、サービス提供事業者の署名鍵により暗号化等が行われます。

当事者自身の署名鍵を使用しないため、当初は第3条の推定効との関係が明確でない部分がありました。

立会人型への第3条推定効に関する政府見解(令和2年Q&A)

令和2年(2020年)9月4日、総務省・法務省・経済産業省は「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」を公表しました。

同Q&Aでは、以下の条件を満たす立会人型電子契約サービスについても、電子署名法第3条の推定効が及び得るという見解が示されています。

  • サービス提供事業者が利用者の指示のみに基づき署名鍵による暗号化等を行う仕組みになっている
  • 利用者が2要素認証等により本人確認が行われている

ただし、この見解はあくまで推定効が「及び得る」という判断であり、個々の事案における具体的な法的効力の判断は、裁判所が証拠に基づいて行うものです。

主な電子署名方式の比較

観点当事者型立会人型
署名鍵の保有者契約当事者サービス提供事業者
電子証明書の取得当事者が個別に取得不要(サービス側で用意)
第3条推定効要件を満たせば及ぶ令和2年Q&Aの条件を満たす場合に及び得る
導入コスト電子証明書の取得・管理が必要比較的導入しやすい

注意点

  • 電子契約の法的効力は、電子署名方式のみで一義的に決まるものではなく、個々の事案における証拠の評価も関係します。
  • 弁護士法人との委任契約や不動産売買の重要事項説明など、法令で書面要件が定められている取引については、電子化の可否を個別に確認することが必要です。
  • 取引相手方との間でどの方式を用いるかについては、事前に合意しておくことが望ましいといえます。

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まとめ

電子契約は、民法上の意思表示の合致により成立します。電子署名法第3条は、一定の要件を満たす電子署名が付された電子文書を「真正に成立したものと推定する」という効果を規定しています。

立会人型電子契約サービスについては、令和2年9月の政府Q&Aにより、利用者の指示のみに基づき暗号化等が行われ、適切な本人確認が実施されている場合には第3条の推定効が及び得るという見解が示されています。

電子契約の導入を検討する際は、自社の取引類型に応じた法的要件と、利用するサービスの署名方式を確認することが出発点となります。

なお、本記事は法務省・デジタル庁等の公開情報をもとに整理したものですが、個別の契約の有効性については必ず弁護士等の有資格者にご相談ください