電子契約サービスの導入を検討する際に「収入印紙はどうなるのか」という疑問が生じることがあります。本記事では、国税庁の公開情報をもとに、電磁的記録(電子契約)に対する印紙税の取扱いと、紙文書と組み合わせる際に注意が必要な点を整理します。
印紙税の基本:「課税文書」に貼付が必要
印紙税は、契約書や領収書などの「課税文書」を作成した者が納付する税金です。課税文書に収入印紙を貼付・消印することで納税します。
印紙税法上の「課税文書」は、同法の別表に列挙された20種類の文書です。たとえば、請負契約書(第2号文書)や継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)などが該当します。
課税文書に該当するかどうかの判断基準については、国税庁タックスアンサー(No.7100)で解説されています。
電磁的記録は印紙税法上の「文書」ではない
印紙税法上、電磁的記録は「文書」に含まれません。
電子文書は紙に記載されたものではなく、可視性・可読性を欠くことから、印紙税法における「文書」の概念には該当しないというのが国税庁の見解です。
この結果、電子契約(電磁的記録)には印紙税が課税されません。課税文書に該当する内容の契約であっても、電磁的記録として締結した場合には収入印紙の貼付は必要ありません。
電子メールで送信した場合の取扱い
国税庁の質疑応答事例(「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」)では、次のような見解が示されています。
課税文書に該当する書類を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信した場合、課税文書を作成したことにはならないため、印紙税の課税原因は発生しません。
つまり、請求書や注文請書を PDF 等の電磁的記録として作成し、電子メールで取引先に送付しただけでは、印紙税は課税されません。
電子メール送信後に紙の現物を交付した場合
注意が必要なのは、電子メールで送信した後に、同じ書類の紙の現物も交付した場合です。
国税庁(福岡国税局)の文書回答事例では、請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した後に、紙の現物を相手方に交付した場合には「課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課される」と示されています。
電子契約を利用する際に、確認用や控えとして紙を交付する運用は、予期せず印紙税の課税対象になる場合があります。
変更契約書が紙の場合の取扱い
電磁的記録(電子契約)で締結した原契約について、後から紙で変更契約書を作成する際の取扱いについても、国税庁の質疑応答事例で見解が示されています。
変更契約書に電磁的記録を引用する旨の記載がある場合
変更契約書に「当初の電子契約の内容を前提とする」旨の記載があっても、電磁的記録は文書に含まれないため、電磁的記録(電子契約)の内容が変更契約書に記載されているものとして判断することはできません。
変更後の金額の記載
電磁的記録に係る契約金額等を記載した紙の変更契約書では、変更後の金額が課税文書の記載金額として扱われます。電磁的記録の段階では課税されていないため、変更後の金額が新たに課税の基準となります。
実務上の留意点
- 電子契約のみで締結が完結する場合は、収入印紙は不要です。
- 電子契約後に紙の原本・控えを相手方に交付する運用は、課税対象になる場合があります。
- 電子契約を用いた後に紙で変更契約書を作成する場合、変更後の金額が印紙税の課税基準となります。
- 特定の書類(宅地建物取引の重要事項説明書等)については、印紙税とは別に法令上の書面交付義務があります。電子化の可否は各法令の規定を確認することが必要です。
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まとめ
電磁的記録(電子契約)は印紙税法上の「文書」に該当しないため、収入印紙の貼付は不要です。これは電子で締結すれば印紙税の課税原因が発生しないという国税庁の見解に基づくものです。ただし、電子送付後に紙の現物を交付した場合や、後から紙で変更契約書を作成する場合には印紙税が課税される場合があります。
なお、本記事は国税庁の公開情報をもとに整理したものです。個別の取引における印紙税の課税関係については、税理士等の専門家にご相談ください。