インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、仕入税額控除を受けるために適格請求書(インボイス)の保存が原則として必要です。しかし、取引先が適格請求書発行事業者として登録していない免税事業者の場合、インボイスを発行してもらえません。

本記事では、インボイスを発行できない取引先との取引で、買い手(課税事業者)として考慮すべき点を、国税庁のQ&Aおよび公正取引委員会のガイドラインをもとに整理します。

インボイスが受け取れない場合の仕入税額控除への影響

適格請求書等保存方式のもとでは、インボイス発行事業者以外の者(消費者・免税事業者・未登録の課税事業者)から行った課税仕入れは、原則として仕入税額控除の対象外となります(国税庁 Q&A 問113)。

支払い代金に消費税相当額が含まれていても、申告上は仕入れ消費税として差し引けないため、消費税の納税額が増える可能性があります。これが、インボイスを受け取れない取引において買い手側が負う主な税務上のコストです。

経過措置の概要

インボイス制度の導入に際しては、急激な影響を和らげるために免税事業者等からの仕入れに係る経過措置が設けられています。この経過措置により、一定の期間はインボイスの保存がなくても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できます。

なお、令和8年度(2026年度)税制改正により、経過措置の適用期限が2年間延長されるとともに、控除できる割合が見直されました。具体的な適用期間・控除割合は改正内容を踏まえて変更されているため、必ず国税庁「令和8年度税制改正特集」ページで最新情報を確認してください。

また、同改正により、一者のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)がその年・事業年度で一定額を超える場合、その超えた部分については経過措置の適用が受けられない制限も設けられています。

公正取引委員会が示す注意事項

インボイス制度への対応を名目に、取引上の優越的な地位を利用して取引先に一方的に不利益を強いることは、独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあります。

財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁が共同で公表した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」では、以下のような行為が問題になりうるとされています。

  • 経過措置により一定の仕入税額控除が認められているにもかかわらず、消費税相当額全額を取引価格から一方的に引き下げること
  • インボイス発行事業者への登録を取引継続の条件として一方的に通告すること
  • 登録しない場合に合理的な理由なく一方的に取引を打ち切ること

取引価格の見直しを行う場合は、取引先との話し合いを経た合意のもとで進めることが求められます。

取引上の対応の選択肢

インボイスを発行できない取引先と継続的に取引する場合、以下の対応が考えられます。

1. 経過措置を活用しながら継続取引する

経過措置の適用期間中は一定割合の仕入税額控除が受けられます。措置が終了するまでの間に、双方で今後の方針を検討する時間を確保できます。

2. 少額特例を確認する

一定規模以下の事業者については、税込み1万円未満の課税仕入れについてインボイスの保存を要しない少額特例(令和5年10月1日〜令和11年9月30日)が設けられています。これに該当する取引であれば、インボイスがなくても控除を受けられます。

3. 取引価格について合意する

消費税相当額の一部または全部を考慮した価格設定について、取引先と話し合いを通じて合意する対応も考えられます。上述のとおり一方的な値引きの強制は問題となりうるため、交渉の過程と合意の記録を残すことが重要です。

4. 取引先の登録状況・予定を確認する

取引先がインボイス発行事業者としての登録を今後行うかどうかを確認することも一つの方法です。ただし、登録するかどうかは取引先自身の判断であり、強制することはできません。

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まとめ

インボイスを発行できない取引先と取引する際は、仕入税額控除が制限される点を踏まえ、経過措置の適用期間・控除割合を確認することが出発点となります。令和8年度税制改正により経過措置の内容が変更されているため、国税庁の最新情報の参照が不可欠です。

取引条件の変更を行う場合は公正取引委員会のガイドラインを踏まえ、一方的な押しつけにならないよう留意が必要です。個別の取引状況における税務上の影響については、税理士等の専門家にご相談ください。